大災害に見舞われない内に、浜岡からの逃亡を図ります(笑)。
御前崎を観光したい気もあったのですが、この分で行くと明日はいよいよ箱根越えのビッグイベント。この日は少しでも箱根口の沼津・三島に近づいておきたくもありました。早くも緊張に捕らわれ始めています。一方で御前崎については事前の下調べもしておらず強い執着もなかったので、今回はショートカットすることにしました。
浜岡の町中から海岸線へは出ず、県道239号線で軽く峠越えして相良町へ抜けます。ここからは再び海岸線の150号線沿いです。歩道はあまり広くないのですが、路肩や交通量が適度で、自転車で走るには前日の行程同様なかなか快適です。やはり掛川越えコースよりこちらを選んで正解だったと思います。相良町のコンビニからは、再び現れた「太平洋岸自転車道」に再挑戦することにしました。国道のすぐ海側を、細いながらも走りやすい自転車道が並走しています。これは快適! これだけの自転車道が整備されているというのは素晴らしいですね。地元和歌山ではなかなかこうは行かないんじゃないか(いや、分かりませんが)と、羨ましくなりました。もっとも、やはり分かりにくくはありますが。
大井川の手前から、海岸線を離れて少し内側に入っていきます。この大井川が、この日一つ目のチェックポイントでしょうか。川を越えるのに富士見橋を渡ったのですが、ここで一つ失敗がありました。コース取りを間違えて、歩道ではなく車道側に入り込んでしまったのです。ところがこの車道が細くって、後続の車が自転車を追い越せないのです。引き返すこともままならず、腹をくくって車道を渡りきったのですが、もうちょっとで渡りきるというところで後ろの車がクラクションならしやがって、頭にきました。そりゃあ悪いのは車道に迷い込んだ私だが、少しでも迷惑を減らそうと精一杯の速さでこいでるんじゃないか。ここまでついてきておいて、てめぇの図体じゃあ所詮よう追い越せやしないのに、ここにきてクラクションか!? もう少しなんだから、最後まで我慢しやがれ!ってなもんで。……すみません、熱くなりました。
大井川を越えたあたりで、こういう立て看板を度々目にしました。この地域オリジナルのアピールのようですが……禁止してどうこうなるもんでもありますまいに…(気分はVOW)。
疲れがかなりたまってきているようです。まだ午前なのに、早くも嫌気が差しています。何はともあれ、焼津。昼食はこの町でと、出発時点から決めています。が、どうにか焼津市に入りはしたものの、市街中心部までは気力が持ちません。少しフライングですが、手前のジャスコで長時間休憩をとって英気を養うことにしました。
この日は久々にちょっとした関門が待ち構えています。焼津から静岡へ至る峠です。箱根を前に山場の前哨戦といったところです。
地図で見ると、大きく3つのルートがあります。1号線で内陸を抜ける宇津ノ谷峠コース。150号線で海岸沿いを抜ける大崩海岸コース。そして、150号線バイパスで一気にトンネルを抜ける日本坂トンネルコースです。地図で見る限り、宇津ノ谷峠コースは見るからに厳しいまともな峠越え。大崩海岸コースは一見海岸線でマシに見えるものの、「国道が海上を通る」のコメントがついた崖っぷち。日本坂トンネルコースが一番楽に思えるけれども、恐らくは自動車が我が物顔で走っていると思われる3km近い長いトンネルで、これはこれで命がけです。前回ここをどう越えたのか、全然覚えていません。割と崖っぽいところを走ったような気もするし、「さぁ、長いトンネルを抜けるぞ!」と気合を入れたような気もします。でも、いずれも他の場所だったかもしれません。事前に決めておくには手持ち情報が少なかったので、とにかく焼津に着いてから考えることにしていました。今、その焼津です。決断を迫られました。
いざ焼津に至ってみると、楽することが最優先になっていました(笑)。とにかく、様子を見るだけでも日本坂トンネルを見に行ってみよう、ということになりました。これだけのトンネルです。入り口を見るだけでも価値があります。150号線バイパスに出ると、いかにもな感じでまっすぐ伸びた国道が新幹線と並走しています。更に道なりに進むと、見えてきました、トンネルの入り口です。国道と線路が不自然なくらい何気に山肌に吸い込まれています。そびえる山は堂々たるもので、なるほどこのトンネルの長さを想像するに難くありません。はたして自分も自動車と共にこの中を走れるのかと、トンネルを前にドキドキしてきました。が、どうも様子がおかしいではありませんか。緑色の標識が見える。歩道が横にそれてゆく。そう、歩行者・軽車両進入禁止、つまり「自動車専用」なのです。半ば予想してはいましたが、案の定な仕打ちにガッカリです。この後どうしたものかと、しばし呆然としてしまいました。
残念ながら、一番楽ちんそうなコース選択は出来なくなってしまいました。迂回しないといけません。海岸沿いか、峠越えか。考えあぐねて近くにいたおじさんに相談すると、峠越えの方を勧めてくれたので、それに従うことにしました。少し戻って回り道することになりますが、仕方ありません。
峠越えでは国道1号線そのものではなく、岡部川沿いの県道を登ることにしました。少しは走りやすいかなという判断でしたが、これは大正解でした。もしかすると1号線よりも少し登りはきつかったのかも知れませんが、充分登れる範囲ですし、何と言っても爆走する自動車に煩わされることがありません。ちょっとした登り訓練にはピッタリのコースです。予想よりずっと楽ちんな峠越えにホッと胸を撫で下ろしました。大崩海岸を選ばなくて良かった。おじさん、ありがとう。
峠を挟んで両側に分かれた珍しい道の駅の東側で峠越えの満足感に浸りながら一休みして、一気に静岡まで下ります。
静岡市街も、今回はショートカットしました。いや、ちょっと違うな。思いのほか楽に静岡へ抜けられたことに気をよくし、少し欲をかいて三保の松原方面へ足を伸ばすことにしたのです。静岡市街を通る1号線から外れて再び海岸線に出、150号線沿いにまっすぐ伸びる太平洋岸自転車道(いちごライン)を快走します。左手には電波銀座で有名な日本平と険しい山肌に建つ東照宮が望まれます。東照宮と日本平の間はロープウェーで結ばれているようです。なかなかの眺めです。日本平は無線屋さんとしてはやはり気になる場所のひとつであります。機会があれば一度訪ねてみたいものです。大阪の生駒のような感じなのでしょうか。東照宮も、地元和歌山のものと比べてみたい気がします。
延々いちごラインを走って走って、なんだか少し日が傾いてきた気がします。ちょっと焦りが出てきました。早く三保の松原を通過してしまいたい。でも、走れど走れどなかなか松原に到着しません。走っているのはとてもよく整備された自転車道なのですが、コースが単調なのでそういう錯覚に陥るのです。ようやく三保の松原に着いたときには、実はもう松原なんてどうでも良くなっていました(笑)。一応それと思しきところで自転車を降りて海岸に出てみたのですが、まぁなんてことはない、ただの松林です(そりゃそうだ)。なんだかすごく疲れてしまいました…。コンビニでため息の一休みです。
ま、一応名所らしいところに立ち寄れたので良かったのですが。でも、この名所の本当の姿は今回のような巡り方では見れてないのでしょうね。
気を取り直して再出発。この日の狙いは富士市に定めました。ちょーっと頑張って距離を稼がないといけません。でも、地図を見る限り富士市までの道のりは険しいものではなさそうです。海沿いの割と平坦な道のりと思われます……というのは、実は目論見違いでした。
清水市を越えるところまでは、疲れはありつつも予想したとおりの道だったのです。少し車を避けて走ってやろうと、興津駅前から裏道に入ったのが災いの元でした。興津地区から由比地区に越える峠。地図上ではほんの2km程度のこの区間が、とてつもなく険しい峠だったのです。地図で見る以上に入り組んで曲がりくねった道。自転車の限界に迫る坂。その割に車やバイクの行き来が多かったりします。これには参りました。この道を選んだ自分に唾を吐きかけてやりたくなりました(笑)。それでもどうにかこうにか登っていたのですが、ピークまであと少しのところで対向車に出会い、とうとう自転車走行を断念して、最後は押して上がりました。何しろ一度自転車を降りると再び乗ることが出来ないのです。
登り切った峠から眼下を見下ろして唖然としました。何なんだこの高さは? 本来走るはずだった国道は遥かあんな下に見えてるじゃないか。なんで俺はこんな高いところまで登らなきゃいけなかったんだ…。後悔したって始まりません。登ってしまったものは仕方がない。登りの道のりから察するに下りも相当急なことが予想され、実際目の前に見えている下りも覗き込むほどなのですが、これを下らないと人里に帰れません(笑)。一つ救いだったのは、眼下に見える国道が、あちらもやはり自転車で走るにはいささか厳しそうな状況であったこと。充分な路側帯がない道を、自動車が我が物顔で飛ばしているようです。走れないことはなかったでしょうが、あちらも命がけだったかと思うと、この苦しさもやむなしかと諦めがつきます。自転車で東海道を旅するにあたって、由比地区は隠れた難所のようです。
下り。予想通りの急坂です。精一杯ブレーキを握り締め、次第に暗くなってくる中を慎重に下ります。一度止まって自転車を降りてしまうと、再び乗るのに往生します。思いがけず箱根下りの訓練になってしまいました。
由比地区から富士川に至る道も山肌沿いに走っていて多少アップダウンがあるのですが、先ほどの峠に比べれば大したこっちゃありません。そうは言っても最早元気もありません。既にとっぷりと日は暮れています。やはり日増しに日が短くなっているように感じます。天候の加減か、気温も低くなってきているようです。野宿には厳しくなってきています。「泊まるところがない」、その一点を心の支えに、何とか富士駅近くまでたどり着きました。
興津地区以降は補給もままなりませんでしたから、もう腹ペコです。とくかく腹ごしらえ。少しうろうろしたのですが、やはりめぼしい店は見つけられません。とはいえ国道沿いを中心に割と郊外型の飲食店は点在していましたので、その中の一つ、ちょっと偉そうな感じのファミレス形和食屋に飛び込み、息を吹き返しました。もうヘロヘロでした(笑)。
この日は、宿もまだ取っていませんでした。夕飯を採りながら慌てて宿を探します。ようやく見つけた宿は、個人経営らしい小さなビジネスホテルでした。豪華とは言えませんが、美人の奥さんが気さくに対応してくれて、気持ちが和みました(笑)。宿でちゃんとした朝食が取れたのも、今回の旅ではここだけでしたね。
寝る前に飲み物を買いにコンビニに出かけ、途中、お稲荷さんか何かのお社があったので、ちょっと気まぐれで拍手してきました。明日はきっと箱根越えです。無事越えられますようにと、ささやかな願いを込めて。
2003/11/25 記