2003/09/20

 さっさと安宿から逃げたかったので……というわけではなく、悪化方向らしい天気を意識して、この日は頑張って少し早めに起きました。あわよくば雨が降る前に……というのは叶わぬ希望で、自転車を取りにベランダに出てみると既に雨の降った形跡があります。ここまで好天に恵まれたのに、最後の最後でやられました。残念です。でも、幸いこの時点ではほとんど降っていません。なんとか雨雲の隙間を縫って走れないかと、タイミングを逃さないよう急いで出発。小田原城跡に別れを告げて旅路を急ぎます。この日はひたすら、お空との戦いです。

 少し走ると、空が若干明るくなりました。ひとまず雨雲を抜けたようです。すかさずコンビニに寄って簡単に朝食を済ませます。後ろを振り返ると重い雨雲が迫っています。この雨雲に再び追い越されないよう頑張って自転車をこぎます。
 途中降ったりやんだりしながらも、何とか小雨止まりで国府津、二宮と通過します。ひたすら走るだけで、周りの状況なんてほとんど覚えてません。しかし疲れも出てきます。休憩の必要性を感じ、最初の大きな町、平塚で足を止めました。休憩といってもお店でのんびりする時間はなく、また疲れのためそんなお店を探す気力もなく、道沿いの八幡宮前でへたるようにしばらく座ってました。大きく立派な八幡宮だったので立ち寄りたかったのですが、これまたそんな時間も気力もありませんでした。

 平塚を出て、あれは藤沢辺りからだったでしょうか、細かくは忘れてしまいましたが、次第に雨が本格化してきました。空を見ても行く先方向が明るくなる兆しはありません。横浜市に入る頃にはいよいよ本降りの様相。とうとう原宿地区で手近なロイヤルホストに飛び込みます。一応雨宿りのつもりで、天候の回復を期待しつつ。このロイヤルホスト、なんとなく見覚えがあるように思えます。もしかすると、前回もここで一休みしたかもしれません。
 お昼をとるには早いので、食事は軽く済ませます。軽く……結局その後はゴールまで昼食も休憩もとれずじまいでしたので、後になってみればもう少ししっかり食べておけばよかったと思います。が、この時点ではまだそこまでの危機感はありませんでした。
 一時間待ちますが、やはりダメ。一向に雨がやむ気配はありません。駐輪場では愛車が相変わらず雨に濡れそぼっています。仕方ありません。諦めて雨の中の走行を決意。ついに出番のレインコートを着用して出発です。といってもこの時点では上着だけ。まだ期待を棄てきれてません(笑)。

 戸塚地区で1号線は旧道と新道に別れます。今回は旧道を選びました。が、失敗だったかもしれません。なんだか狭くて交通量も多い道をあちこち曲がりくねらされた上にアップダウンも多く、雨で滅入ったところ拍車をかけられて気分を害しました。戸塚が嫌いになりました(八つ当たりです 笑)。
 雨は更に降り続きます。もはや回復は期待できません。やむを得ず、ズボン側も着用します(どの辺りで着用したかは忘れてしまいました)。

 横浜市街です。前回の記憶から、この町にはあまりいい印象を持っていません。港町だけにアップダウンが多く、また横浜駅周辺を中心に自転車が走りにくい道造りになっていた記憶が強く残っています。「とても自転車が快適に走れる街じゃない。出来れば二度とこんなところは走りたくない」という印象でした。とはいえ、一度しか走ったことがない中で、それはイメージ先行の偏見だったかもしれません。今回改めて横浜を走るにあたり、その印象が正しかったのか間違っていたのか、見定めようという意識がありました。
 しかして、私の記憶は間違っていませんでした。特に横浜駅東口前の国道1号線の劣悪さは覚悟を持って望んでいても辟易するほどです。充分な路側帯はないわ、地下にもぐるわ、一方通行だわ、長い区間横断できないわ、少し間違えるとてんであさっての方向へ連れて行かれるわ、もう散々です。今回は実際入るところを間違えて、地下にもぐらされた挙句にぐるっと回って逆方向の桜木町方面へ誘導されそうになりました。一度そういう道に入ってしまうとかなり走ってからでないとコースを修正できないのです。やむを得ず今来た一方通行を逆走して元に戻った次第。あるいは抜け道があったのかも知れません。が、真直ぐ1号線沿いに走れないこと自体がおかしいじゃないですか。国内筆頭の重要幹線ですよ? きっとこのあたりの1号線は、自分の足を使って移動することを忘れた馬鹿が設計したに違いありません。
 駅前だけではありません。周辺にも横断歩道のない交差点やら使えない歩道やら、多府県の幹線と比べると最悪の部類と思える区間が多くあります。かくして、横浜は私にとって「全国で一番住みたくない町」と確定しました。自然の造形ゆえではない、人為的な悪意だけに腹が立ちます。
 扇大臣時代の国土交通省が「出来るだけ全ての国道に歩道を整備していきたい」という方針を打ち出したことがあります。素晴らしい提案だと思いました。自転車はともかく、人が安心して通れない幹線道なんて絶対おかしいのです。よく考えもせず就任と同時に道路公団総裁の首切りを宣言して我こそ正義と思い込んでいるような大臣がはたしてこういう地味な理想論に向き合ってくれるかどうか甚だ疑問ですが、是非とも、国土交通省には頑張ってもらいたいものです。

 熱くなりました……。話を戻しましょう。
 白状します。横浜の道に対する憤りには雨天走行による苛立ちも寄与していました(もちろん晴天でも相当憤ったことでしょうが)。雨は激しさを増すばかり。レインコートは着込んでいますが、次第に足先が冷たくなってきました。雨水が靴の中にしみてくるのです。足先が濡れるというのは想像以上に体力を消耗します。川崎市末吉地区あたりで「これはマズイ」と悟り、最終兵器、オーバーブーツ(靴の上からつける、レッグウォーマーみたいなもの)を着用します。これで完全装備。もう雨なんて怖くありません。が、一方で、ここまで装備すると着脱が相当面倒です。びしょびしょのこの格好ではそうそうお店にも入れないでしょう。この時点で、昼食をとることは諦めました。こうなるともう一分一秒でも早くゴールにつけるよう、ひたすら自転車をこぎ続けるしかありません。
 川崎の道は、横浜ほど走りにくくはありませんでした。多摩川大橋を越えて東京に入るともう安心。普通に走れます。前回の旅では国道一号線、いわゆる第二京浜を皇居前の警視庁までひたすら走りました。が、今回はゴールが中野区の自室です。晴れていたらそれでも渋谷あたりまで出てからゴールに向かうつもりだったのですが、そんな悠長なことやってられるような状況ではありません。都心部に入ることなく、都道318号線、いわゆる環七通へ左折します。大都市の幹線ですが、自動車だけでなく自転車や歩行者も安心して通れるよう、なかなかよく造られています(交差点では自動車だけ高架でバイパスできるようになっている。歩行者などは普通に平地の横断歩道を渡ればよい)。
 しかし、東京というところは案外アップダウンが多い。関東平野というよりもやはり武蔵台地が正解なのかなと、身にしみて思ったりします。こたえます。充分な食事を採らないまま長い時間雨に打たれ、体温が少し落ちてきたような気さえします。ペダルを踏む足に力が入りません。ペースもかなり落ちている気がします。ちょっとやばめです。でも後少し! 後少し!

 雨の中地図を見ることも出来ず、地名を示す看板は見えれど不案内ゆえそれがどこなのかはっきりとは分からず、なんとなく「あぁ、目黒よりは渋谷に出やすいところまで来たんだな」というくらいの感覚だけを心の支えに、一歩、一歩、ペダルを踏み込みます。走るのは環状線。いやらしいもので、そんな私をからかうかのように微妙に西側に膨らんでいて、真直ぐゴールの方へは誘ってくれません。途中ついつい「東京には入ったんやから、もうええやん……自転車どっかに預けてタクシーで帰っちゃえよ」という甘い誘惑に捕らわれそうになりながらもどうにか走り続け、16:30、ついにゴールを果たしました。思ったよりも早いゴールでした。
 這うように部屋に転がり込んで、レインコートを脱ぎ捨て、濡れた体を拭いて服を着替えると、すぐさま飛び出して近所のラーメン屋さんに駆け込みました(笑)。もうお腹ペコペコ! 環七通の途中でラーメン屋さんから漂ってきた匂いに鼻腔をくすぐられ、到着したら何をさておいてもラーメン!と決めていました。ラーメンを口にしたときの気分は、最高でした。

7:45
チェックアウト
8:20
小幡サンクス(朝食)
9:25
平塚八幡宮前
10:35
横浜市原宿ロイヤルホスト(休憩)
11:35
16:30
中野区自室着

2003/12/1 記


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